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不動産のQ&A 【その1 原状回復、敷金の返還、修繕をめぐるトラブル】

II アパート・マンション等の賃貸借に関するもの
【その1 原状回復、敷金の返還、修繕をめぐるトラブル】

【その1 原状回復、敷金の返還、修繕をめぐるトラブル】

Q1 アパートを借りていますが、今度退去します。敷金を返してもらえますか。「ガイドライン」というものがあると聞きました。 何かの役に立つのでしょうか。

A1 賃貸借契約が終了し、借主が建物を明渡した場合、敷金から賃料の未払分や原状回復費用を差し引いた残額を貸主は借主に返還しなければならないことになっています。ここで問題となるのが、借主がどの範囲まで原状回復義務を負い、その費用を負担するのかということですが、貸主と借主の間でトラブルになるケースも多いことから、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(平成23年8月再改訂)」で、原状回復の費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準を示しています。このガイドラインは、法的強制力があるというものではありませんが、多くの裁判で、これに沿った敷金返還等の判決がみられるようです。

Q2 アパートを退去した時に敷金が殆ど返ってきませんでした。私は喫煙者なのですが、そのためでしょうか?

A2 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を越えるものと判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件での喫煙等が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる」とされています。そして、クロス張替えの場合、毀損部分を含む一面分の張替費用について、経過年数を考慮した残存価値相当額を借主の負担とするのが妥当との考え方を示しています。

Q3 アパートを退去するにあたって、宅建業者である管理会社から「畳の交換とハウスクリーニングは借主の負担です。契約書にも書いてあります。」と言われました。契約書をよく読んでいなかったのですが、判を押した以上、こちらの負担になるのでしょうか?

A3 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められるが、経年変化や通常損耗に対する修繕義務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、1,特約の必要性があり、かつ、暴利でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、2.賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、 3.賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることという要件を満たしていなければ、その効力を争われることに十分留意すべきである」と示しています。特約の内容をよく見直した上で、管理会社や賃貸人と交渉してみたらいかがでしょうか。

Q4 今度アパートに入居しますが、契約の前に、媒介(仲介)業者から、原状回復の特約を見せられました。それは大変細かくて、通常の使用による損耗と思われるものなどまで借主負担となっています。物件は気に入っていますが、この特約は「原状回復のガイドライン」とはだいぶ違う気がします。はずしてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

A4 Q4にもあるように、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化や通常損耗まで賃借人に負担させる特約については、一定の要件を満たしていなければその効力が争われることに十分留意すべきであるとしています。そのようなことを基に媒介(仲介)業者と交渉し、特約をはずしてもらえないようであれば、原状回復のトラブル回避のためには契約しないのも方法の1つです。

Q5 東京23区内のアパートを最近出て、今は他県に住んでいます。敷金は28万円でした。特に汚していないのに、敷金返還額は5万円であったため、納得できませんでした。弁護士に頼らなくても、少額訴訟は可能と聞きましたが、具体的にどこへどう起こせばいいのでしょうか。

A5 少額訴訟は、原則として、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に起こすことになります(敷金返還請求のように、不動産に関する請求の場合にはその不動産の所在地を管轄する簡易裁判所にも訴えることができます)。ご質問のケースでは、「東京簡易裁判所」でよいと思われますが、詳しくは最寄りの簡易裁判所にご確認ください。また、訴訟を起こすには、訴状や申立手数料、郵便切手などが必要ですが、訴状の書式やその記入例などは裁判所のホームページでも入手できるようですので参考にしてみてはいかがでしょうか。「住宅賃貸借(借家)の手引」32ページも参照してみてください。

Q6 大阪市内でアパートを借りて4年近く住んでいます。家賃は月10万円、保証金は60万円で、敷引は45万円です。来月、退去するつもりですが、隣に住んでいた人が最近退去した際は、保証金から45万円を引かれた上に、原状回復費用も殆どその人の負担だったそうです。次の部屋を借りるのに、返還額が殆どゼロでは困ります。取り戻す方策はないでしょうか。

A6 敷引は、保証金(敷金)返還の際に一定額または一定割合を必ず差し引くこととする特約のことをいいますが、その趣旨、目的などがあまり明確ではないため、敷引額が高額であったり、敷引割合が高率であった場合等にはその有効性が争われる場合があります。退去するにあたって、まず、部屋の状況についてきちんと大家さんと立ち会って確認し合い、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などをもとにしっかりと交渉をしてください。また、敷引をめぐる裁判例については、「判例紹介」のページも参考にしてください。

Q7 事務所ビルを貸していますが、テナントが退去することになり、原状回復を求めたところ、 「通常損耗だから負担しない」と言われました。相手方の言い分が正しいのでしょうか?

A7 居住用の建物の賃貸借については、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で、原状回復は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されていますが、事務所ビル等の事業用の建物の賃貸借に関しては、裁判例で「オフィスビルの場合、通常損耗を含めた原状回復費用を賃借人の負担とすることは経済的合理性があり、原状回復条項に基づき、賃借人には通常の使用による損耗、汚損も除去し原状回復する義務がある」とするもの(東京高判平成12年12月27日)、「賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し、賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去し、本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡すとする条項は、通常損耗分についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものと解することはできない」とするもの(大阪高判平成18年5月23日)など判断が分かれています。

Q8 住んでいるアパートが空き巣に入られ、窓ガラスを壊されました。鍵をちゃんとかけていたのですが、窓ガラスの修理代は借主である私の負担になるのでしょうか。

A8 貸主には、建物の使用及び収益に必要な修繕をする義務があります(民法606条1項)。したがって、借主が自らの過失で窓ガラスを壊したなどといった特段の事情がない限り、貸主に窓ガラスを修繕する義務があります。台風などで、窓ガラスが割れた場合も同様に考えます。ただし、窓に雨戸があるのに閉めておかなかったことでガラスが割れたような場合は、善管注意義務違反があるとして借主の負担となることもあります。