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タイトル:裁判事例マンションの設備騒音と意思表示の錯誤による契約の無効

大阪高裁判決 平成12年12月15日
(判例時報 1758号 58頁)

《要旨》
 ポンプ室からの騒音は無いとしてマンションを購入したが、入居後その騒音に悩まされる状況では、買主の意思表示には要素に錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
があったとして、売買契約の無効が認められた事例

(1) 事案の概要
 平成8年1月、Xの妻は、建築中の本件マンション販売センターで、販売代理業者Aから、パンフレット、図面集等をもらって説明を受けた。その際、気に入った本件マンション203号室の真下に「受水槽」があるとの図面集の記載を見て、Aの担当者に音がするかどうか訪ねたところ、昔はしたが、今はしないとの説明を受けた。また、重要事項説明書の記載では、共用部分には、受水槽、高架水槽の他、ポンプ室があるとされていたが、図面集の1階平面図には、ポンプ室があるとの記載はなかったので、Xの妻は安心し、同月末、Xは、当該居室を5,160万円で買い受けた。
 同年8月、Xら家族は入居したが、本件居室の下から滝の流れるような騒音が昼夜を問わず聞こえてくるので、Yに対して対策を講じるよう申し入れた。Y及び施工会社が数度にわたって防音・消音工事を施した結果、騒音は小さくなったが、Xは不十分であるとして更なる対策を求めて争いとなり、Xは、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
に基づく契約解除、錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
無効又は詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
取消を理由に、売買代金相当額の返還を求め、提訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件ポンプ室を発生源とする騒音は多少改善されたが、その後もなお建築学会の適用等級基準の特級ないし1級程度の騒音は発生しており、ポンプの消耗部品の劣化による異常音が発生する場合には、適用基準の3級に該当し、通常の静けさの住環境にあるとは全くいえない。部品交換は管理組合(かんりくみあい)
分譲マンションなどの区分所有建物において
、区分所有者が建物および敷地等の管理を行
なうために区分所有法にもとづいて結成する
団体のこと。
の理事会の決議が必要で、Xのみの意見で交換することはできない状況である。
 (イ)売買契約に際しての、Xの妻とAの担当者とのやりとりからは、通常の静けさを享受できる住戸を購入するというXの動機が表示されているというべきであり、なおも騒音がある状況である以上、Xの意思表示には法律行為の要素に錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
があり、本件売買契約は無効である。

(3) まとめ
 騒音による契約解除の是非をめぐる紛争は、瑕疵担保の問題として扱われることが多いが、音の感じ方には個人差があり、騒音の程度と質によっては瑕疵に当たるかどうか、瑕疵に該当するとしても契約解除が認められるかどうか微妙な場合が多い。
 本件は、音の程度等に加えて、交渉の過程において購入者の動機がはっきり表示されていたことから、法律行為の要素に錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
あったとして、契約無効を認めたものである。

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