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タイトル:裁判事例ローンの解約と真摯な努力義務

東京地裁判決 平成9年9月18日
(判例時報 1647号 122頁)
(判例タイムズ  980号 206頁)

《要旨》
 住宅ローンが受けられず、ローン解約をした買主は真摯な努力義務を尽くしたとして、その解約を認め、売主業者に手付金の返還を命じた事例

(1) 事案の概要
 買主X(公務員、53才、年収960万円)は、平成7年1月、業者Aの媒介で、売主業者Yから、土地(167.71平方メートル)建物(2階建113.03平方メートル)を1億2,000万円で買い受け、手付金1,000万円を支払った。
 Xは、本件売買代金の資金調達について、住宅ローン5,500万円を計画し、本件契約にローン特約(ろーんとくやく)
不動産取引では、予定していた融資が金融機関
等によって承認されなかった場合には、買主は
不動産を購入する契約を解除して、契約を白紙
に戻すことができるという特約を盛り込むことがある。
このような特約を「ローン特約」と呼んでいる。 
(解除期限2月17日、申込先はXの希望する金融機関)を付した。その後Xは、Yと協議して、特約期限を延長し、申込先はC銀行及びD銀行とする、融資額は5,000万円で変動金利とする、返済期間は融資申込先の最長年数とする、という内容の合意書を交わした。Xは、C銀行、D銀行のそれぞれ2支店に融資申込みを行ったが、完済時の年齢が70才以下で、年収に対する返済負担率が35%(D銀行は40%)以下でなければならないとして断られた。また、XはC銀行ローンセンター及びD銀行の7支店に、完済時年齢が75才までの大型ローンの融資の可否を問い合わせたが、受け入れられなかった。
 Xは、Yに対し、3月18日ローン解約を通告し、手付金の返還を求めたが、Yは、Xが金融機関に対して真摯な申込みをしていない、Aを関与させていない等を理由として、本件解約は無効であると拒否したので、Xは本訴訟を提起した。

(2) 判決の要旨
 (ア)Xは、本件合意後、融資機関に申込手続を積極的に行ったが、いずれも融資基準に満たないとして断られたことや、融資の可能性を積極的に探っていたことなどに照らすと、Xは真摯な努力を尽くしている。
 (イ)媒介業者Aを関与させずに融資申込をX単独で行ったとしても、申込手続のAの代行又はAと共同して行うべき旨の合意は成立しておらず、当該合意をしていない限り、Xが自ら融資機関と交渉したとしても何ら非難されるべき点はない。
 (ウ)したがって、Xのローン解約には理由があるので、その請求を認容する。

(3) まとめ
 ローン特約(ろーんとくやく)
不動産取引では、予定していた融資が金融機関
等によって承認されなかった場合には、買主は
不動産を購入する契約を解除して、契約を白紙
に戻すことができるという特約を盛り込むことがある。
このような特約を「ローン特約」と呼んでいる。 
と買主の努力義務については、融資限度額を大幅に超え、保証人(ほしょうにん)
債務者がその債務を履行しないときに、
その履行をする責任を負う者をいう。
をつける努力をしなかったから、買主は真摯な努力義務を尽くさなかったとした、平成9年9月19日西宮簡裁判決があるが、判例は少ない。本件は、買主は真摯な努力義務を尽くしたとした初の判決である。

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