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タイトル:裁判事例イエヒメアリと瑕疵担保責任

大阪高裁判決 平成12年9月29日
(判例集未登載)

《要旨》
 売買契約解除当時の被害の状況は、アリの異常発生による特異な状況であり、住居として不適当といえるような瑕疵は認められないとされた事例

(1) 事案の概要
 売主Xらは、平成8年6月、業者の媒介で、買主Yらに、中古マンションを3,600万円で売却した。Yらは、改装工事をしたうえ、同年9月に入居した。
 Yらは、その1か月後から、アリが台所で列を作っているのを発見し、その後食器棚に500匹以上の巣を見つけたり、就寝中に刺される等被害に悩まされることになった。その後、Yらは、他の居住者からアリの被害が10年以上続いていることを聞いたり、管理会社の担当者から5年以上前からアリが生息し、完全な駆除はできないでいることも知った。
 そこでYらは、平成10年1月、暇庇担保責任に基づき売買契約を解除し、それを前提に損害賠償等を請求して、提訴した。
 一審は、アリの被害を隠れた瑕疵(かくれたかし)
売買契約を締結した時点において、買主が
知らなかった瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)であり、かつ買主が通常
要求されるような注意力を働かせたにも
かかわらず発見できなかった瑕疵のこと。
として売買契約の解除を認め、Xらは控訴し、Yらも付帯控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)Yらが購入する以前からアリが棲息していたとは認められるが、本件解除当時の状況は、アリの異常発生によってもたらさた、特異な現象であったものと認められる。
 (イ)築後25年以上経過した本件マンションでは、害虫の発生・棲息等はある程度予測されるところであり、建物の構造に起因するものである等、日常生活に絶えず支障を及ぼし、これを低減することが不可能でない限り、住居として瑕疵があるとまではいえない。
 (ウ)アリ被害は、アリが異常繁殖したためであり、このような状態が常態化していたとは認め難い。マンション全体で対応すれば、生活に支障がない程度にアリ被害を押さえることは可能であるし、本件マンションの住人の大半は転居を考えることなく居住しており、本件居室に住居として不適当というだけの瑕疵があるとはいえない。
 (エ)アリの出現は、マンション全体の問題であり、「暇疵が共用部分に起因する場合」に該当するものと解され、本件居室の暇疵であるとはいえない。
 (オ)以上のとおり、本件解除及びそれを前提とする損害賠償請求は理由がなく、また、不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
の主張についても認め難い。

(3)まとめ 
 本件は、虫の被害による瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
が争われた事例であるが、判決は、マンション全体がほぼ常に満室であるという居住の状況、全戸一斉に薬剤を散布した後はアリが目に見えて減少したこと等を総合的に勘案したものと考えられる。

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