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タイトル:裁判事例地震多発地での宅地分譲における宅地売主の責任

仙台高裁判決 平成12年10月25日
(判例時報 1764号 82頁)

《要旨》
 10年に1回程度、震度5の地震が発生している地域なら、それに耐え得る宅地でなければ瑕疵があるとされた事例

(1) 事案の概要
 地方公共団体Yは、昭和42年から45年にかけて、市内北東部の丘陵地に大規模な住宅用団地(177ha、2,400区画)を造成し、順次分譲販売した。
 Xら(購入当時8名)は、昭和44年から46年の間に、本件団地内の宅地をそれぞれYから買い受けた。 本件団地は、切土(きりど)
傾斜のある土地を平らな土地にするために、
地面を掘り取ること。
地盤、盛土(もりど)
傾斜のある土地を平らな土地にするために、
土砂を盛ること。
地盤、切土(きりど)
傾斜のある土地を平らな土地にするために、
地面を掘り取ること。
盛土(もりど)
傾斜のある土地を平らな土地にするために、
土砂を盛ること。
の境(以下「切盛境」)の三種類のものが存在することとなったが、Xらは、そのことを知らないまま購入し、その敷地にそれぞれ木造家屋を建築して、入居した。
 昭和53年6月、震度5の大地震が起こり、本件宅地に数箇所の亀裂と一部地盤沈下が発生し、本件各居宅にも、基礎及び壁面の亀裂、床面の沈下等の被害が生じた。
 Xらは、Yの造成工事が地震に耐えられなかったものだったために本件宅地等に損害が発生したとして、Yに対し、売主の瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
に基づいて、建物修補費用等及び宅地の価格減少分の損害賠償を求めて提訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)当該地域では、10年に1回程度震度5の地震が発生していたから、その程度の地震に耐え得る宅地でなければ、一般的な造成宅地として通常有するべき品質と性能を欠くものといえる。
 (イ)本件宅地付近では、Xらの居宅を含めて家屋が倒壊する甚大な被害はなく、家屋の被害は基礎及び壁等の亀裂・歪み、ブロック塀等の倒壊の被害が目立つに過ぎない。したがって、本件宅地における被害状態、気象庁発表の情報によれば、本件宅地の震度は5と判断される。
 (ウ)Yは、大地震に対する耐震性について、明確な基準ないし経験則がなかった旨主張するが、本件造成工事は事前に地質調査も行い、過去の新潟地震等の経験から、耐震性の高い地盤にする造成工事を行うことは可能であったので、Yの主張は採用できない。
 (エ)以上によれば、YはXに対し、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
に基づく損害賠償として、信頼利益(しんらいりえき)
無効の契約を有効と信頼したために失った利益、
例えば有効な土地の売買契約と信頼して土地を見
に行った費用や、その土地に建築するために用意
した資材等を信頼利益という。
である本件各居宅の修補費用等のうち、瑕疵と相当因果関係にある7割相当額及び今後必要となる特殊基礎工事費を支払うことが相当である。

(3) まとめ
 宮城県沖地震に伴う宅地被害について、同様の訴訟では、宅地に瑕疵がなかったとしているもの(仙台地判 平成4年4月8日 判例時報1446号98頁)もあり、宅地地盤の耐震性については、さまざまな条件が関係することから、客観的な基準を設けることは難しいと思われる。

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