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タイトル:裁判事例高層マンション建設による風害

大阪高裁判決 平成15年10月28日
(判例時報 1856号 108頁)

《要旨》
 高層マンション建設により風害が発生したとして、分譲業者に損害賠償を命じた事例

(1) 事案の概要
 分譲業者等Y(マンション販売会社、建築会社及び設計会社)は、3棟の高層マンションを建築分譲することを計画した。そして、平成7年2月の着工と前後して、X(2世帯6名)を含む近隣住民の自治会とYの間で継続的に説明会等が行われ、平成7年4月、近隣自治会とYは、風害対策条項を含む協定を締結した。平成9年3月、本件マンション全体が竣工したが、Xは、風害によって生命、身体に対する大きな損害を被ったこと、X宅の建物・土地の価値が低下したこと等を理由として、Yに損害賠償を求めて提訴した。
 一審は、X各1名につき精神的苦痛に対する慰謝料各60万円及び弁護士費用各10万円合計420万円を認容し、不動産価値の低下については認めなかった。そこでXとY双方が控訴に及んだ。

(2) 判決の要旨
 (ア)個人が居住する居宅の内外において良好な風環境等の利益を亨受することは、安全かつ平穏な日常生活を送るために不可欠なものであり、法的に保護される人格的利益として十分に尊重されなければならない。違法な権利侵害の有無については、風環境に関する人格的利益が侵害された程度や態様、被害防止に対する関係者の対応や具体的に採られた措置の有無及び内容、効果、地域環境等の諸般の事情を総合的に考慮して、風害の発生が一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかにより決すべきである。本件マンション建築による風環境の変化等によれば、Xらは一般社会生活上受忍すべき限度を超える程度まで人格的利益が侵害されたものと認められる。
 (イ)風環境の悪化から逃れるため長年住み慣れた居宅からの転居をせざるを得なかったこと等の事情を総合すれば、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、X各自につき100万円が相当というべきである。また、X宅周辺の風環境の悪化には著しいものがあり、住宅周囲における風環境の悪化が継続する場合、建物のみならずその敷地の価格が下落するのが自然というべきである。
 (ウ)以上により、慰謝料各人100万円合計600万円のほか、弁護士費用合計190万円、補修費用等相当分11万円余、不動産価格下落による財産的損害合計1,110万円を加えてXの損害額を合計約1,911万円余と認定し、一審判決後に弁済済みの金額420万円を除いて1,491万円余の支払をYに命じた。

(3) まとめ
 一審は、風害による住環境の侵害を理由に慰謝料として損害賠償を認容した初めての判決であったが、高等裁判所は財産的損害についても認容し、踏み込んだ判断を示した。本件は挙証責任をYに負わせる協定が結ばれており、かつ、X宅が実際に売却されているという事案ではあるが、分譲業者等の責任を厳しく問うものとして、学ぶところの多い判決と思われる。

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