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タイトル:裁判事例媒介業者による不当な買取り

東京高裁判決 平成14年1月16日
(判例集未登載)

《要旨》
 売りの専任媒介を依頼された業者が、買い希望があることを秘して、自らが買主となって売買価格の7割程度の価格で締結した売買契約が取消しできるとされた事例

(1) 事案の概要
 Yは、平成11年5月、自宅マンションの売却を宅建業者Xに媒介してもらうこととし、売買価格を1,650万円とする専任媒介契約(せんにんばいかいけいやく)
媒介契約の一形式で、依頼者が他の宅建業者に
重ねて媒介を依頼することが禁止されている契約のこと。 
を締結した。
 その締結の12日後、XはY宅を訪れ、本件マンション内で本件住戸より少し狭い住戸が980万円で競売(けいばい)
債権者が裁判所を通じて、債務者の財産(不動産)
を競りにかけて、最高価格の申出人に対して売却し、
その売却代金によって債務の弁済を受けるという
制度のこと。
に出されたので、本件住戸を1,000万円以上で売ることは難しいと告げた。さらに1,220万円なら本件住戸をXが買い取ってもよいと持ちかけ、Yはこれに同意し、同月末売買契約を締結し、Yは、手付金120万円をXに支払った。
 ところが、Yは転居先の賃借を媒介してもらった別の宅建業者Aから、本件マンション内の本件住戸と同じ間取りの住戸が、Aの媒介により同年5月に1,650万円で売れたこと、さらに、本件住戸の買い希望をXに照会したところ、既に購入予定者がいるとの返事だったこと等を知らされた。このため、YはXに騙されたとして、引越し荷物を転居先から本件住戸に戻して居住を続けた。
 Xは、手付金の返還及び債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
による違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
の支払を求めて提訴したが、第一審はXの請求を棄却したため、Xは控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)Xは、本件建物を相場より低い価格で買い取ることを計画し、本件建物に関する問い合わせを受けた事実を秘し、虚実とりまぜてYに対して本件建物を1,220万円で売却する方が得策であるかのように申し向け、これを信じたYに本件建物をXに1,220万円で売却することを決断させたものであり、Xの詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
が成立する。したがって、Yは、詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
を理由に本件売買契約を取り消すことができる。
 (イ)Xの詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
行為により、Yは転居のための諸費用及び精神的損害等として120万円の損害を被ったと認められるから、Yはその損害賠償請求権をもってXに対する120万円の手付金返還債務と相殺(そうさい)
2人の者が互いに相手に対して同種の債権を
持っているとき、相手方への意思表示によって
その債務を対当額で消滅させることをいう。
することができる。
 (ウ)以上により、Xの請求は理由がないから、Xの控訴を棄却する。

(3) まとめ
 媒介行為の過程で、実務上、例えば、売主の希望価格で買手がつかず、場合により、媒介業者が当該物件を買い取ることがある。
 そのような場合には、業者は、新たに自らが買主の立場になることを表明して、依頼者との媒介契約を合意解除した上で、売買契約手続を進めることが適切である。

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