制作:国土交通省 |
運営:不動産適正取引推進機構 |
1 本システムは、これまでに発生した不動産取引をめぐる他のトラブル事例をもとに、消費者の皆様が、トラブルの未然防止や万一トラブルに発展した場合に円滑な解決が図れるよう、情報を提供するものです。 2 掲載内容は、①裁判事例、②国土交通省各地方整備局や各都道府県で宅建業者に対して行った行政処分、③(一財)不動産適正取引推進機構で調整した特定紛争処理案件の中から基礎的で有用と思われる事例を抽出し、項目ごとに整理したうえ、事案の概要や紛争の結末等について要約して記載しています。 |
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トラブル事例大項目:土地建物の賃貸借契約に関するもの (原状回復を除く) |
トラブル事例中項目:賃貸借契約、更新 | トラブル事例小項目: |
タイトル:裁判事例賃貸借契約の締結に至らなかった場合の貸主の責任
東京高裁判決 平成14年3月13日
(判例タイムズ 1136号 195頁)
《要旨》
建物の賃借希望者が貸主の異議がないので、賃貸借契約締結に向けての準備をしていたが、貸主が別の者と賃貸借契約を締結したとして、貸主に対する損害賠償請求が認められた事例
(1) 事案の概要
Yは、平成11年7月頃、貸しビルの建築を計画し、賃借人の募集及び賃貸借契約の媒介を不動産会社Aに依頼した。
Aは、Xに賃借の勧誘をしたところ、Xは、事務所などとして賃借したいとの意向を示した。建設業も営むAは、Yと工事請負契約(うけおいけいやく)
家の建築工事など、当事者の一方がある
仕事を完成することを約束し、相手方が
その仕事の結果に対して報酬を支払うこ
とを約束するような契約を「請負契約」という。を締結し、建築工事に着手し、また、平成12年1月上旬頃、それまでの交渉結果に基づき、賃貸借契約の案(月額賃料平均坪単価5,000円)を作成して、XとYの双方に届けた。
Xは、要望どおりの内容で賃借できるものと考え、Aに対し、コンセントの位置、電灯の数、電話線の位置などを指定し、Aはこのとおりの工事をしたが、Yも格別異議を述べなかった。
ところが、同じ頃に、他の団体からYに対し、本件建物を一括賃借したいとの申し入れ(月額賃料平均坪単価6,500円)があり、Yは、これに応じ、Xに対して貸室を賃貸しない旨を伝え、同年3月末、この団体との間で建物賃貸借契約を締結してしまった。
Xは、平成12年1月上旬頃までに賃貸借契約が締結されたとして、債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。による損害賠償請求権に基づき、Yに対し損害賠償を求めて提訴したが、第一審(長野地裁佐久支部判決 平成13年10月25日)で敗訴し、控訴審において、Yには契約締結上の過失(けいやくていけつじょうのかしつ)
契約が成立するまでの過程で、当事者の一方
に過失があり、これによって善意無過失の相
手方に損害を与えた場合、その者は賠償責任
を負わなければならないとする法理。があるとして、予備的に損害賠償請求を追加した。
(2) 判決の要旨
(ア)XY双方は、賃貸借契約の内容を順次詰めていたものと認められるが、結局、賃貸借契約の作成までに至らなかった。また、Xが要望する賃料額についても、YがAに不満を述べていたことからすれば、Yがこれに同意したとは認められないので、XとYとの間に、賃貸借契約が締結されたものと推認することはできない。
(イ)契約成立に向けた交渉の結果、当事者の一方が相手方に対し契約の成立についての強い信頼を与えたにもかかわらず、この信頼を裏切って契約交渉を一方的に打ち切った場合は、信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。上、一種の契約上の責任として、相手方が被った信頼利益(しんらいりえき)
無効の契約を有効と信頼したために失った利益、
例えば有効な土地の売買契約と信頼して土地を見
に行った費用や、その土地に建築するために用意
した資材等を信頼利益という。の侵害による損害を賠償するのが公平に適する。
(ウ)YはXが本件賃貸借の準備行為を行ったことについて異議を述べなかったため、Xは、要望どおりの内容で賃借できるものと信じ、賃貸借契約締結の具体的な準備を進行させていた。しかし、Yは、Xに貸すよりも有利な賃借希望者が出現したために、突然、賃貸借契約締結に向けてのXとの交渉を一方的に打ち切ったという点からすれば、Yには、信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。上、Xが被った信頼利益(しんらいりえき)
無効の契約を有効と信頼したために失った利益、
例えば有効な土地の売買契約と信頼して土地を見
に行った費用や、その土地に建築するために用意
した資材等を信頼利益という。の侵害による損害を賠償すべき責任があるというべきである。
(3) まとめ
本判決は、貸主側の契約締結上の過失(けいやくていけつじょうのかしつ)
契約が成立するまでの過程で、当事者の一方
に過失があり、これによって善意無過失の相
手方に損害を与えた場合、その者は賠償責任
を負わなければならないとする法理。を認め、賃貸借契約が締結されるものと信じたために被った「信頼利益(しんらいりえき)
無効の契約を有効と信頼したために失った利益、
例えば有効な土地の売買契約と信頼して土地を見
に行った費用や、その土地に建築するために用意
した資材等を信頼利益という。」の損害賠償を借主に認めたものである。
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