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タイトル:裁判事例住宅供給公社によるマンションの値下げ販売

大阪高裁判決 平成19年4月13日
(判例時報1986号 45頁)

《要旨》
 住宅供給公社による売れ残りマンションの値下げ販売について、再販価格が適正を欠きその行為に過失があるとして慰謝料の支払が命じられた事例

(1) 事案の概要
 地方住宅供給公社であるYは、災害復興住宅203戸を完成後、不動産会社4社に対し、分譲価格、販売方法等の提案コンペを実施し、分譲坪単価を153万円とするA社の案を基本に検討を加え、分譲坪単価を154万円と決定した。
 Yは平成10年から3次に分けて本件マンションを分譲したが、平成13年2月時点で70戸が売れ残っていた。Yは再度コンペを行い、B社案を参考に坪83万円とする方針を固め、平成14年5月、本件マンションの既入居者に説明を行った。
 本件マンションの既入居者らが差額の返還を求めたところ、Yは1戸当たり50万円を支払う旨の提示をし、Xら77戸の入居者がその受入れを拒否した。
 Yは、Xらの同意のないまま平成14年11月から値下げ販売を開始し、平成17年2月までに全戸の販売を完了した。
 Xらは、Yの債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
または不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
により損害が生じたとして提訴したが、一審は、「YがXらに対し適正な譲渡価格設定義務を負うとは認められず、売買契約締結時にYの説明義務違反はない。また、販売価格も市況とかけ離れた廉価とは認め難く、値下げ販売が債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
または不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
とはならない。値下げ販売に際してXらと法的な意味での交渉をする義務はない。」としてXらの請求を棄却した。Xらが控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)商品の売主は自由に価格を設定、変更できるが、分譲マンションは通常の商品とは異なる特性を有する。Yは公的な法人であり、一定の譲渡制限もある。このような特性等を考慮すると、Yには適正な譲渡価格を設定して販売を実施する義務があるというべきである。
 (イ)コンぺにおける各社の提案価格は、算出過程等に疑問があり、客観性、合理性を欠くといわざるを得ない。Yの市場動向の把握も客観性、合理性を欠いていた。
 (ウ)Yは完売を急ぐあまり、当時の市場価格の下限を10%以上下回る、著しく適正を欠く価格で本件マンションを販売したものであるから、その行為には過失があり、不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
を構成する。よってYには賠償責任がある。
 (エ)本件マンションの価格は値下げ販売によって一時的に値下がりしても将来にわたり続くとは言い難く、経済的損失は認められない。Yの不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
により住戸の価格を本来の市場価格以下に低下せられたXの精神的苦痛に対する慰謝料は1戸当たり100万円、弁護士費用は同10万円が相当と認められる。

(3) まとめ
 売れ残り住宅の値下げ販売については、買主の損害賠償が認められない判例が多いが、本件においては、精神的苦痛に対する慰謝料が認められている。売主が公的な法人であったことも影響しているものと思料される。

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