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タイトル:裁判事例マンションの高さ20mを超える部分の撤去請求が棄却された

最高裁判決 平成18年3月30日
(判例時報 1931号 3頁)
(判例タイムズ 1209号 87頁)

《要旨》
 マンションの近隣地域の居住者等50名が、20mを超える建物部分の撤去と不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
に基づく損害賠償請求が棄却された。

(1)事案の概要
 Yは、平成11年7月、本件土地を90億円余で買受け、同年8月、指導要綱に基づく事業計画事前協議書、景観条例に基づく大規模行為届出書を市に提出した。平成12年1月、建築確認がなされ、Yは、直ちに工事に着工した。市は、Yの建築確認取得後、本件土地を含む地区内について、建築物の高さを20m以下とする地区計画を告示した。また、規制対象区域に本件地区を加えることに改正する条例が、同年2月1日に公布・施行された。
 Xらは、本件建物は違法建築物であり、日照等及び景観につき受忍すべき限度を超える被害を被っていると主張して、(ア)本件建物のうち、高さ20mを超える部分の撤去を求めるとともに、(イ)不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
に基づく損害賠償を請求したところ、一審は本件建物のうち高さ20mを超える部分の撤去と慰謝料等の支払を認容したが、控訴審はYの敗訴部分を取り消したため、Xらが上告した。

(2) 判決の要旨
 (ア)良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものと言うべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益は法律上保護に値する。
 (イ)もっとも、この景観利益の内容は、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利を有するものを認めることはできない。
 (ウ)ある行為が景観利益の侵害に当たるためには、少なくともその侵害行為が刑罰法規や行政法規の違反、公序良俗違反に該当するなど社会的に容認された行為としての正当性を欠くことが求められる。
 (エ)市は平成12年2月に本件改正条例を公布・施行しており、高さ制限の規制は建築基準法3条2項の「現に建築の工事中の建築物」である本件建物には及ばないというべきである。その他本件建物の建築が、刑罰法規や行政法規の違反、公序良俗違反に該当するとは認められず、景観利益を侵害する行為にはあたらない。

(3) まとめ
 本判決は、一審判決時から話題となったマンション訴訟の上告審である。
 本判決では、都市の景観について、歴史的または文化的環境を形作り、豊かな生活環境を構成する場合には、客観的価値を有するとし、居住者の景観利益は法的保護に値すると認める一方で、景観利益の侵害行為が違法となる場合の基準を示している。

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