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タイトル:裁判事例景観利益侵害を理由とするマンション一部撤去請求

東京地裁判決 平成17年11月28日
(判例時報 1926号 73頁)

《要旨》
 高層マンションにより景観利益を侵害されたとして損害賠償を求めた事案において、一部撤去請求等が否認される一方、騒音被害の慰謝料請求は一部認容された事例

(1) 事案の概要
 建設工事や不動産売買などを業とする株式会社のYらは、東京都内に所在する土地(以下「本件土地」という。)を購入し、Yを施工者として、マンション(以下「本件建物」という。)を建築した。
 そして、本件土地の近隣地域に居住するXらは、本件建物により、景観利益等を侵害されたと主張し、本件建物のうち高さ12メートルを超える部分の撤去を求めるとともに、本件工事の騒音・振動・粉塵等にさらされたことによる精神的な被害とXら所有建物の損傷被害、また、本件建物の建築によるXら所有不動産の価値下落という被害を被ったと主張して、不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
等により、財産的、精神的損害の損害賠償を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)Xらは、特定地域内において、当該地域の地権者等による土地利用の自己規制の継続により、相当の期間、ある特定の人工的な景観が保持され、社会通念上もその特定の景観が良好なものと認められ、地権者らの所有する土地に付加価値を生み出した場合であること、及び景観の内容と利益の享受主体が明確であることの二点により本件土地周辺の環境は法的には後されるべきである旨主張するが、その前提となる事実については、それを認めることができず、Xらが主張する内容の景観が本件土地周辺において確立していたものと認めることはできない。よって、その侵害を理由とする本件建物の一部撤去請求は、理由がない。また、圧迫感のない生活利益、日照権及びプライバシー権の侵害に基づく撤去請求については、これらの被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものであると認めることはできない。したがって、上記各法益の侵害を理由とする本件建物の一部撤去を求める請求は、理由がない。
 (イ)本件工事に伴う騒音は、一般社会生活上受忍すべき程度を超えた精神的な苦痛を受けたものと認めることができ、その精神的損害の程度は、騒音にさらされていた時間の長さに関係すると解される。したがって、XらはYらに対し、その騒音にさらされていた時間の長さに応じた慰謝料を請求することができる。

(3) まとめ
 マンションによる景観侵害が問題となった事例として、いわゆる国立マンション訴訟があるが、最判平成18年3月30日は、「景観権」までは認めなかったものの、良好な景観の恩恵を享受する近隣住民には法律上保護すべき「景観利益」があると認定した(前掲)。平成17年6月の景観法全面施行とも相まって、今後、景観利益に対する関心は更に高まると思われる。

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