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タイトル:裁判事例手付解除の場合の媒介報酬

福岡高裁判決 平成15年12月25日
(判例時報 1859号 73頁)
(判例タイムズ 1153号 149頁)

《要旨》
 手付金の放棄によって契約が解除された場合に、商法512条商人がその営業の範囲内において他人のために
行為をしたときは、相当な報酬を請求すること
ができる。
により相当の報酬額を請求することができるとされた事例

(1) 事案の概要
 不動産業者Xと土地所有者Yは、平成12年11月、専任媒介契約(せんにんばいかいけいやく)
媒介契約の一形式で、依頼者が他の宅建業者に
重ねて媒介を依頼することが禁止されている契約のこと。 
を締結した。Xによる媒介活動の結果、平成13年2月、Yは、訴外Aとの間で、代金総額5億2,455万円、手付金を2,000万円とする売買契約を締結したが、翌月、AはYに対して、手付金の放棄による契約の解除を申し入れ、Yもこれを承諾した。
 Xは、Xの媒介により売買契約が締結された以上、その後において、契約が解除されても報酬請求権が消滅することはないとして、約定報酬額の全額である1,658万円余をYに請求した。
 これに対し、Yは、媒介契約書(ばいかいけいやくしょ)
宅建業者は、媒介契約を締結したときは、遅滞なく、
一定の事項を記載した書面を作成し、
依頼者(売主・買主・貸主・借主)に交付しなければならない。
この書面を「媒介契約書」と呼んでいる(宅建業法第34条の2第1項)
。媒介契約書に記載されるべき事項は詳細に法定されている。
には、買主の手付放棄により解除された場合の報酬に関する定めがないので、報酬を請求することはできないなどと主張した。
 一審では、Xが請求できる報酬額は、Yが受領した2,000万円を基準に3%+6万円と消費税5%を合計した額が相当であるとして、69万円余の支払をYに命じたが、Xは、これを不服として控訴した。

(2) 判決(控訴審)の要旨
 (ア)一般に媒介報酬(ばいかいほうしゅう)
宅建業者の媒介により、売買・交換・
貸借契約が成立した場合に、宅建業者
が媒介契約にもとづき、依頼者から
受け取ることができる報酬のこと。
は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものであり、手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致する。
 (イ)報酬についての特約がない場合でも、媒介業者であるXは商法512条商人がその営業の範囲内において他人のために
行為をしたときは、相当な報酬を請求すること
ができる。
により相当の報酬額を請求できると解される。本件においてXが受け取るべき相当な報酬額については、取引額、媒介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきである。
 (ウ)本件では、手付金の額が売買代金額に対して比較的少額であること、Xは契約締結の過程で格別の労を取ったことがないこと、また、Yは売買契約締結及び履行のために格別の出損をしたことが窺えず、これが解除されたことにより著しく損害を被ったような事情も格別見当たらないこと、また、本件土地の所有権を喪失することなく2,000万円を取得する結果となったことその他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件でXがYに請求することのできる報酬額としては1,000万円をもって相当と認める。

(3) まとめ
 媒介報酬(ばいかいほうしゅう)
宅建業者の媒介により、売買・交換・
貸借契約が成立した場合に、宅建業者
が媒介契約にもとづき、依頼者から
受け取ることができる報酬のこと。
の請求に関する過去の判例や学説によれば、媒介により契約が有効に成立した以上、手付放棄、合意解除や債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
などによる契約解除が行われても、報酬請求権の成立には何ら影響を与えるものではないされている。
 本件では、媒介業者が契約締結の過程で行った行為、依頼者の被った損害や取得金等の状況を参酌して媒介業者が請求できる報酬の相当額を示している。

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