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タイトル:裁判事例補修を怠った家主に対する敷金返還請求

東京簡裁判決 平成16年7月5日
(判例集未登載)

《要旨》
 貸主が約定の補修義務を果たさず、賃借人から契約を手付放棄により解除した際の敷金(しききん)
建物の借主が、賃料の滞納や不注意等による
物件の損傷・破損等に対する修復費用等の損
害金を担保するために、契約時に貸主に預け
入れるもの。
等返還請求が認められた事例

(1) 事案の概要
 賃借人Xは、平成15年6月28日、貸主Yとの間でアパートの一室の賃貸借契約を締結した。Xは当該契約に先行して6月18日に手付金5万円を支払ったほか、敷金(しききん)
建物の借主が、賃料の滞納や不注意等による
物件の損傷・破損等に対する修復費用等の損
害金を担保するために、契約時に貸主に預け
入れるもの。
等21万円余を支払った。上記契約に際して、Xは、畳の交換などの補修を求めたが、Yは畳の交換費用の半分はXが負担するように言ったが、むしろXはYから現状のままで本件アパートに入居してほしいと言われていた。Xは、本件契約後も現状のまま入居するか迷っていたところ、Yから契約をやめてもよいと言われたので本件契約を解除し、上記預入金26万円余の返還を求めた。
 これに対してYは、アパートの襖については、同年7月10日ころに張り替えることを予定しており、畳については交換することにしていたと主張。さらに、本件契約において、賃借人の都合により本件契約を解約するときは、解約日の3カ月前に書面により賃貸人に提出しなければならず、これに従った解約をしない場合には、賃借人は賃貸人に対し、賃料と共益費(きょうえきひ)
賃貸集合住宅の入居者などが、建物の賃料
とは別に負担する費用をいう。建物全体の
清掃や補修、警備等の費用、建物の共用部
分に関する付加使用料など、入居者が分別
して負担することが難しい費用が対象となる。
の合計額の6カ月分を保証する旨の合意がなされており、Xはこれに沿った解約をしていないので、本件契約解除の効果は認められないこと、賃借人が賃貸人に一旦払った礼金(れいきん)不動産の賃貸借契約に際し、借主から貸主に支払
われる一時金の一種。通常は返還を要しないもの
とされるが、その性格については必ずしもはっきり
していない。
や家賃または共益費(きょうえきひ)
賃貸集合住宅の入居者などが、建物の賃料
とは別に負担する費用をいう。建物全体の
清掃や補修、警備等の費用、建物の共用部
分に関する付加使用料など、入居者が分別
して負担することが難しい費用が対象となる。
は一切返還しないとする合意があるので、Yにこれらを返還する義務はない等として、争った。

(2) 判決の要旨
 (ア)YはXの入居までに風呂場の壁修理その他を補修すべき義務を負ったとはいえない。
 (イ)Yは事業者として、Xは消費者として本件契約を締結しているが、本件契約の解約にあたり賃料と共益費(きょうえきひ)
賃貸集合住宅の入居者などが、建物の賃料
とは別に負担する費用をいう。建物全体の
清掃や補修、警備等の費用、建物の共用部
分に関する付加使用料など、入居者が分別
して負担することが難しい費用が対象となる。
の合計額の6か月分を保証する旨の合意等は、著しくXの権利を制限し、又はXの義務を加重するので、消費者契約法10条民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない
規定の適用による場合に比し、消費者の権利を
制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契
約の条項であって、民法第1条第2項に規定す
る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害
するものは、無効とする。
に照らして無効である。
 (ウ)Yは、Xに対し解約権を付与したものと解され、本件手付は民法557条に定める解約手付の性質も有していると解すべきである。本件契約の賃貸借期間は平成15年7月1日からであるが、Yは少なくとも襖の張替えや畳の交換などの義務は負っており、貸主としての履行着手しない段階である平成15年7月8日には、Xは、Yに対し本件契約の解約申入れをしていることが認められる。
 (エ)以上によれば、Xは、Yに対し、平成15年7月8日に、本件手付を放棄して契約を解約したことが認められるから、XのYに対する21万円余の請求を認容する。

(3) まとめ
 契約に先立って借主が媒介業者に支払う金銭で、順位確保の性格を持つ預り金についてのトラブルは多い。本件は直接契約当事者である家主に支払っていること等から、「手付金」として認定された。

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