トラブル事例大項目:土地建物の賃貸借契約に関するもの
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タイトル:裁判事例借地の一部分の契約更新拒絶

東京地裁判決 平成13年5月30日
(判例タイムズ 1101号 170頁)

《要旨》
 借地の一部が更地になっていることを理由にした当該部分の賃貸借契約の更新拒絶について、明渡しが命じられた事例

(1) 事案の概要
 Xの被相続人Aは、Yの被相続人Bに対し、土地甲・乙・丙を含む土地を賃貸していたところ、昭和35年3月、土地甲・乙・丙につき期間20年とする更新契約を締結した。その後Aを相続したXとBを相続したYとで紛争を生じ、Yは土地丙の賃借権を放棄した。他方、土地甲・乙は法定更新(ほうていこうしん)
期間の定めのある建物の賃貸借において、
当事者が期間の満了の1年前から6月前ま
での間に更新をしない旨の通知または条件
を変更しなければ更新をしない旨の通知を
しなかったときは、従前の契約と同一の条
件で契約を更新したものとみなす
(借地借家法26条1項)。
がなされた。
 Yは、平成元年10月頃までに、乙地上の建物を壊して甲地上の自宅を曳行移設しようとした。他方、Xは、土地丙と土地甲・土地乙の境界を明確にするため、木製の塀を設置した。
 その後、Xは、土地乙が更地のままであったため、平成12年3月の賃貸借契約満了に際し、Yに対して、契約更新を拒絶し明渡しを求めた。Yは、土地乙は、土地甲と一体となって賃貸借契約の対象となっており、土地乙が更地となったのは、Xの妨害によるものであるとして明渡しを拒んだため、Xが明渡しを求めて提訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)当初、一つの契約で賃貸借契約の対象とされた土地は、契約の終了の当否を判断するにあたって、同一の判断をするのが相当である。契約の対象とされた土地が明確に区分でき、使用形態が異なるなど特段の事情が存在する場合には、契約対象土地を区分し、それぞれ終了事由の有無を検討することができる。土地甲と乙は、土地丙を挟んでおり、利用形態も別個、独立であると認められ、賃貸借契約終了の当否を考えるに当たってはそれぞれ独立の対象として判断するのが相当な事情がある。
 (イ)借地法によれば、借地上の建物が存在しない場合には、更新請求が認められない。しかし、建物不存在の理由が、賃貸人の責めに帰すべき事情による場合には、賃貸人が更新請求を争うことは、信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上許されない。Yは、土地乙に建物を曳行移設する計画のために、Xに対し塀の除去を申し入れておらず、また、Xによる塀の設置もYの計画を阻止するためのものとは認められない。Yは、Xによる塀の設置以来、12年以上、土地乙を更地にしており、XがYの計画に異議を述べたこともなかった等の事情を考慮すると、XがYの計画を妨害したということはできない。
 (ウ)以上より、土地乙の部分に係る賃貸借契約は期間満了により終了したと解するのが相当であり、Xの明渡し請求を認容する。

(3) まとめ
 借地契約において、借地の一部についてであっても、地主の更新拒絶の正当事由(せいとうじゆう)
土地・建物の賃貸借契約において、賃貸人が
契約の更新を拒絶したり、解約の申し入れを
する際に必要とされる「事由」をいう。
があれば、その一部について明渡しを認めるとの学説が有力であり、これと同旨の裁判例もある(東京高判 昭和54年3月28日 判例タイムズ392号85頁)。他方、契約終了時の建物不存在の理由が賃貸人の責めに帰すべき事情による場合は、更新拒絶することは信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上許されないとする判例(最判 昭和52年3月15日 判例タイムズ852号60頁)があり、本判決もこの考え方に沿ったものである。

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