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タイトル:裁判事例調停内容と異なる目隠し用のフィルム貼付と慰謝料請求

東京高裁判決 平成16年3月31日
(判例タイムズ 1159号 204頁)

《要旨》
 調停の条項を完全に満たすものではなかったことに対する、慰謝料請求が棄却された事例

(1) 事案の概要
 Yは、診療所の新設にあたり、近隣住民Xとその工事を巡ってトラブルが生じていたが、平成12年8月、診療所の窓の「内側に曇りガラスを使用し二重ガラスサッシとして、目隠しとする」旨の条項(本件条項)等が取り決められた調停が成立した。
 診療所開業後、Xは、設置されたガラス(タペストリーガラスで、透明ではない。)が、本件条項所定の曇りガラスに当たらず、目隠し機能が十分でないとして、Yに抗議した。再度の調停は、不調に終わり、Yは、平成13年8月、ガラスに目隠し用のフィルムを貼り付け、その不透明度を高めた。しかし、Xは、曇りガラスに交換するよう要求し、本件による精神的苦痛に対する慰謝料を求めて、提訴した。
 一審は、本件調停の趣旨・目的からすると、本件ガラスは目隠し用として適切なものではなく、Yには、フィルムを貼付するまでの間は、本件条項違反があったとして、慰謝料等60万円の支払をYに命じたため、Yは控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)ガラスの不透明性の程度について、本件条項の趣旨からすると、目隠しとしてやや不十分であったといわざるを得ないが、本件条項は目隠しとして曇りガラスを使用しなければならないと定めるにとどまり、その種類、品質とりわけ不透明性の程度については具体的に特定されていなかったのだから、Yが本件ガラスをもって本件条項に違反しないと考えたことには無理からぬ面もあった。
 (イ)不透明性の程度がやや不十分であったとはいえ、診療所から本件窓越しにX宅を臨んだとしても、X宅の形状がぼんやりとした状態で見えるにとどまり、居室内の状態や居住者の動静などは判別しがたい状況であること等に鑑みると、本件ガラスの使用が本件条項を完全に満たすものではなかったからといって、完全な履行をなすべき義務に加え、更にXに対する慰謝料支払義務までも生ずるものとは認めがたい。
 (ウ)Xは、のぞき見されているのではないか等の精神的苦痛を受けた旨主張しているが、この状況からは、Xのいう精神的苦痛なるものに対して慰謝料支払義務を肯定することはできない。
 (エ)本件ガラスの不透明性の程度及び本件フィルムの貼付状況、診療所とX宅との位置関係、建物の使用目的に照らして、Yにおいて、本件窓に民法235条境界線から一メートル未満の距離において
他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁
側(ベランダを含む。)を設ける者は、目
隠しを付けなければならない。
に定める目隠しを設置する義務があるとは認められない。また、Xに受忍限度を超えるプライバシーの侵害など生活の平穏に対する侵害があったとは認められない。

(3) まとめ
 不動産取引においても、当事者間で、調停、和解その他の紛争解決方法が利用されるが、合意内容に係る条項等は、明確に記述するよう十分留意する必要がある。

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