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タイトル:裁判事例防火扉の操作方法等に関する説明義務

最高裁判決 平成17年9月16日
(判例時報 1912号 8頁)
(判例タイムズ 1192号 256頁)

《要旨》
 マンション販売業者は、防火扉の操作方法を、買主に対して説明すべき信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上の義務があるとされた事例

(1) 事案の概要
 平成11年4月、売主業者Y1は、マンションの一室を購入者Aとの間で5億3,000万円で売買する契約を締結した。Aとその妻Xは、平成12年4月に本件マンションの引渡しを受け、同年9月から居住を開始した。
 平成12年10月、本件マンションのAの寝室からAの寝たばこによるものと思われる火災が発生し、Aは火傷を負い病院で治療を受けたが、翌月死亡した。
 Xは、本件マンションには防火扉が設置されていたが、電源スイッチが入っていなかったため作動しなかったことは防火扉の機能上の瑕疵に当たり、Y1は瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
に基づく損害賠償責任を負うし、また、Y1及び売主の代理業者Y2が電源スイッチを切って引渡したのは債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
に当たり、防火扉のスイッチの操作方法等についても説明しなかったので、Yらには売買契約上の付随義務としての説明義務違反があると主張し、Yらに対し損害賠償を請求した。
 一審はXの請求を棄却し、二審も、本件マンションには火災時に防火扉閉まらなかった瑕疵が認められるものの、その瑕疵による損害が、防火扉が作動していた場合の損害を上回ることを認めるに足りる証拠はない、Y2が宅建業者であることを前提にしても、不動産の販売代理人に防火扉についての調査・確認義務や使用方法について説明義務があるとは認めるに足りない等としてXの請求を棄却したため、Xは上告した。

(2) 判決の要旨
 (ア)火災に際して防火設備の1つとして極めて重要な役割を果たしうる本件防火扉の電源スイッチが一見してそれとはわかりにくい場所に設備されていたにもかかわらず、Aは何ら説明を受けずに電源を切られた状態で引渡しを受けたという事実関係に照らすと、Y1には、Aに対し、本件売買契約上の付随義務として電源スイッチの位置・操作方法等について説明すべき義務があった。
 (イ)Y2はその業務において密接な関係にあるY1から委託を受け、Y1と一体となって本件マンションの販売について一切の事務を行ったのであるから、このような事情の下ではY2には信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上Y1と同様の義務があったと解すべきであり、Y2は不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
による損害賠償義務を負う。
(差戻し後の高等裁判所は、最高裁判所の判示どおりにYらの説明義務違反を認めた。)

(3) まとめ
 設備が作動しない状態を瑕疵として取り上げた事例は珍しいが、本件では、電源スイッチの所在が一見して明らかとはいえない造りになっていたなどの事情により、売主業者の説明義務違反を認めた。
 また、販売代理業者の説明義務については、同扉の使用方法についての説明が法的義務として常に求められるわけではないが、販売代理業者が売主と一体となって勧誘から引渡しに至るまで一切の事務を行っていたことなどの事情が勘案された。

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