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タイトル:裁判事例賃貸住宅の2階窓からの転落死と貸主の責任

福岡高裁判決 平成19年3月20日
(判例時報1986号58頁)
(判例タイムズ1251号217頁)

《要旨》
 賃借人の妻が2階窓から転落し死亡した事故について、窓の設置・保存に瑕疵があったとして、賃貸人の責任を一部認めた事例

(1) 事案の概要
 賃貸人Yの父Y′は、昭和48年2月頃、建物内部が中央部で2つに区分されている1棟2戸の木造2階建ての建物を建築し、平成12年10月、そのうちの1戸をXに賃貸した。
 この建物には、2階の南東側(1階玄関のほぼ真上、玄関前はコンクリート舗装の駐車場)に窓が設けられており、その窓は、床(畳)面から約73cmの位置に窓枠下部があって、手すりや柵等は設置されていなかった。また、この窓の両脇の外壁には、蛇腹式(伸縮式)の物干し竿受けが設置されていたが、この竿受けは既に錆び付いていて伸縮できない状態であった。
 Xの妻Aは、平成14年11月、この窓の外にある物干し竿に洗濯物を干していて転落し死亡した。Xは、本件窓に手すりがないことが建物の欠陥であると主張して損害賠償を請求したが、Y′の相続人であるYは、本件窓の腰高は十分で、手すりがなくても危なくないから欠陥はないと反論した。
 一審は、本件建物ができて30年近く無事故であることなどから、本件窓には欠陥はないとして、Xの請求を棄却し、Xが控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件窓の構造やAの身長を総合すると、本件窓枠から身を乗り出したりした場合、窓下に転落することもないとはいえない。特に、竿受けの蛇腹部分が錆び付いて本来の伸縮機能を失っていたことからすると、万一身体のバランスを失ったような場合には、そのまま転落する危険性がなくはなかった。
 (イ)本件窓に手すりや柵などが設置されていなかったことは、転落防止という観点からしてその安全性が十分なものではなく、本件窓の設置・保存に瑕疵があったというべきである。
 (ウ)本件窓の腰高は、建設業界で幼児の墜落防止を考慮し適当と認められる高さの範囲内であり、採光や通風、居室の開放感等の見地からも、本件窓の腰高自体を瑕疵とみなすことはできないが、本件窓の腰高について瑕疵がないからといって、本件窓が十分な安全性を備えていたということにはならない。
 (エ)本件事故発生まで30年近くこのような転落事故が発生したことはないこと、A及びXは本件竿受けの不具合を修理・調整することもなく、Y′に対して不具合や窓の危険性を訴えることもしなかったこと等から、Aにも極めて大きな過失があり、損害については、90%の過失が相当である。

(3) まとめ
 本件では、裁判所は、窓の安全性については、窓自体の安全性だけでなく、窓がどのように使用されていたかも併せて考慮すべきとしている。一方、借主には不具合箇所を修理等せず、また、貸主に危険を訴えることもしなかったことに過失があったとしている。

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