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タイトル:裁判事例更新料特約と民法90条及び消費者契約法

京都地裁判決 平成20年1月30日
(判例時報2015号 94頁)

《要旨》
 賃貸借契約における更新料支払の約定が、民法90条及び消費者契約法に反し無効であるとはいえないとされた事例

(1) 事案の概要
 Xは、平成12年8月、業者Aの媒介で、Yの所有する賃貸アパートの一室について賃貸借契約を締結した。
 本件賃貸借契約は更新可能な1年契約で月額家賃4万5千円、敷金(しききん)
建物の借主が、賃料の滞納や不注意等による
物件の損傷・破損等に対する修復費用等の損
害金を担保するために、契約時に貸主に預け
入れるもの。
10万円、礼金(れいきん)不動産の賃貸借契約に際し、借主から貸主に支払
われる一時金の一種。通常は返還を要しないもの
とされるが、その性格については必ずしもはっきり
していない。
6万円、更新料10万円が約定されていた。
 Xは、平成13年から平成17年まで毎年8月末の更新契約の際、Yに対し更新料10万円を支払ったが、平成18年8月末の更新の際、解約の通知をしない一方、更新する旨の合意もせず、更新料の支払を行わなかった。Xは、Yに対して平成18年10月付けの賃貸借契約解除通知書により同年11月末をもって本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示を行い、同日本物件を明け渡した。
 Xは、同年11月分の賃料を支払わず、Yに対し過去5回にわたり支払った更新料の返還を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件賃貸借契約には自動更新条項があり、法定更新(ほうていこうしん)
期間の定めのある建物の賃貸借において、
当事者が期間の満了の1年前から6月前ま
での間に更新をしない旨の通知または条件
を変更しなければ更新をしない旨の通知を
しなかったときは、従前の契約と同一の条
件で契約を更新したものとみなす
(借地借家法26条1項)。
が行われる余地はない。平成13年から平成17年までの5回の更新は当事者の合意によるものであり、平成18年の更新は自動更新である。
 (イ)本件賃貸借契約における更新料は主として賃料の補充(前払い)としての性格を有し、併せて、その程度は希薄であるものの、なお更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質を有している。
 (ウ)更新料の金額は10万円であり、契約期間や月払いの賃料金額に照らし、直ちに相当性を欠くということはできず、本件更新料約定が民法90条により無効であるとするXの主張を採用することはできない。
 (エ)本件更新料約定は「賃料は、建物については毎月末に支払わなければならない」と定める民法614条本文と比べ、賃借人の義務を加重するから、消費者契約法10条民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない
規定の適用による場合に比し、消費者の権利を
制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契
約の条項であって、民法第1条第2項に規定す
る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害
するものは、無効とする。
前段の「消費者の義務を加重する消費者契約の条項」というべきであるが、金額が過大なものではない。
 (オ)本件更新料約定の内容は明らかで、Xに不測の損害あるいは不利益をもたらすものではなく、更新料が、その程度は希薄であるものの、更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質を有することを併せて考慮すると、本件更新料約定が消費者契約法10条民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない
規定の適用による場合に比し、消費者の権利を
制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契
約の条項であって、民法第1条第2項に規定す
る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害
するものは、無効とする。
後段の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」とはいえない。  
 (カ)以上のとおり、本件更新料約定が民法90条または消費者契約法10条民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない
規定の適用による場合に比し、消費者の権利を
制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契
約の条項であって、民法第1条第2項に規定す
る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害
するものは、無効とする。
により無効であるとするXの主張は採用することができないから、本件更新料約定の無効を前提とするXの不当利得返還請求には理由がない。

(3) まとめ
 本件は更新料の法的性質について、賃料の補充、更新拒絶権放棄の対価としつつ、賃借権強化の対価としての性質も認定しており、更新料の金額、契約期間、賃料水準を総合考慮して、更新料約定の有効性を認定している。
 Xは控訴しており、上級審の判断が待たれるところである。

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