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タイトル:裁判事例周辺道路計画の告知義務

東京地裁判決 平成11年1月25日
(判例時報 1675号 103頁)

《要旨》
 準工業地域内のマンションの売買において、売主業者が、500m離れた道路建設計画について説明をしなくても、告知義務違反等があったとはいえないとされた事例

(1) 事案の概要
 買主Xは、平成9年5月、売主業者Yから、新築マンションを3,750万円で買い受け、手付金等金740万円を支払った。
 本件マンションは、地下鉄駅付近の準工業地域内にあり、前面道路の西には、高速道路とそのインターチェンジがあった。また、前面道路の南には、高速道路間を結ぶ自動車専用道路が2010年に開通予定であり、当該道路の建設計画原案では、本件マンションから500m南に排気塔、6~700m南西にトンネル出入口、南西800mに当該道路の出入口が設置される予定であった。
 重要事項説明の際、本件地域は準工業地域で、工場等への出入り及び騒音等があり、区分所有者は苦情を申し立てない旨近隣工場等との協定書が締結されているとの説明がなされたが、本件道路計画の説明はなかった。Xは、新聞折込広告で本件道路計画の存在を知り、その後住民の反対運動があることを知った。Yは平成10年1月、Xから残金の支払意思がないとの通知を受けて、手付金を没収し、中間金をXに返還した。
 Xは、本件契約の錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
無効、詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
取消並びにYの不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
責任により、手付金の返還を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件マンション周辺は、空気がきれいで交通量が少ないというには憚られる立地条件にあり、Xもこれを認識し、購入動機は、もっぱら本件物件の利便性にあった。
 (イ)仮に空気がきれいで交通量が少ない環境であることが購入動機であったとしても、本件計画道路は、未だ計画決定されておらず、環境への影響も不明であり、本件物件は価格と利便性の良さから2週間で完売していることからすれば、通常人であればその意思表示をしないと考えられるほど重要な部分についての錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
とは認められないから、契約の要素の錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
とみることはできない。
 (ウ)本件排気塔、トンネル出入口は、嫌悪施設(けんおしせつ)
近隣に立地することが嫌がられる施設をいう。
住宅地での立地について紛争が発生したり、
地価に影響を与える場合がある。
であるが、本件契約締結当時は、計画決定されておらず、かつ、500m以上離れており、周辺環境に及ぼす影響も不明であって、Yに告知義務があったとはいえず、欺罔(ぎもう)
相手を「だます」こと。
行為に当たるということはできないから、詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
の主張は理由がない。
 (エ)Yには告知義務がないから、不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
も成立しない。従って、Xの請求には理由がないので棄却する。

(3) まとめ
 本判決では、売主業者には告知義務があるとはいえないとされたが、後日のトラブルを避けるために、売主業者は、周辺環境に影響を及ぼすような施設の計画等について、知り得た情報は説明しておくことが望ましい。

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