制作:国土交通省 |
運営:不動産適正取引推進機構 |
1 本システムは、これまでに発生した不動産取引をめぐる他のトラブル事例をもとに、消費者の皆様が、トラブルの未然防止や万一トラブルに発展した場合に円滑な解決が図れるよう、情報を提供するものです。 2 掲載内容は、①裁判事例、②国土交通省各地方整備局や各都道府県で宅建業者に対して行った行政処分、③(一財)不動産適正取引推進機構で調整した特定紛争処理案件の中から基礎的で有用と思われる事例を抽出し、項目ごとに整理したうえ、事案の概要や紛争の結末等について要約して記載しています。 |
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トラブル事例大項目:重要事項説明に関するもの | トラブル事例中項目:その他 | トラブル事例小項目: |
タイトル:裁判事例不完全な工事見積書を交付した媒介業者の責任
東京高裁判決 平成12年10月26日
(判例時報 1739号 53頁)
《要旨》
媒介業者には、誤解を与えるような見積書を交付したことなど、媒介契約に基づく善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)
受任者が、委任の本旨に従い、善良な管理者の
注意をもって委任された事務を処理する義務を
負うこと。受任者には、その職業・地位・能力
等による社会通念上要求される注意を払う義務
が課され、この注意を怠って損害が発生した
場合は、責任追及を受けることがある。違反があったとされた事例
(1)事案の概要
平成元年2月頃、買主Xは、媒介業者Yから、土地を紹介された。本件土地は、東側隣地の境界付近で高低差約7~8mのがけになっており、建築関係法令等により、東側境界から10~11mの範囲は建築制限を受け、がけ部分に擁壁を設置しない場合には、建物の建築に当たって、がけの高さの2倍を超えるセットバック敷地の前面道路が2項道路の場合、その中心線
から2m後退した線が道路の境界線とみなされ、
敷地の一部が道路部分(セットバック部分)
とみなされる。をしなければならないという制約もあった。
しかし、Xは、本件土地の眺望の良さが気に入ったことから、Yに対し、東側のがけ部分に擁壁を建造するとした場合等の概略図と費用の概算の調査を依頼した。Yは同年4月、費用約2,100万円の第1案と、費用約1,000万円の第2案とを示した概算見積書をXに交付した。
Xは、第2案程度の費用で擁壁が築造できるものと信じ、同年5月Yの媒介により、売主との間で本件土地を1億1,800万円で買い受け、同年6月代金決済時にYに媒介手数料370万円余を支払った。
重要事項説明において、Yは、本件土地につき盛土(もりど)
傾斜のある土地を平らな土地にするために、
土砂を盛ること。をする場合には宅地造成等規制法等の規制がある旨告知したが、建築関係法令等に基づく規制があることの説明をしなかった。その後、Xが宅地造成工事に着手しようとしたところ、本件概算見積書にある擁壁設計案は建築関係法令等に基づく規制に適合しないことが判明した。
XはYに対し、損害賠償を求めて提訴し、第一審の横浜地裁は、Yに媒介契約に基づく善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)
受任者が、委任の本旨に従い、善良な管理者の
注意をもって委任された事務を処理する義務を
負うこと。受任者には、その職業・地位・能力
等による社会通念上要求される注意を払う義務
が課され、この注意を怠って損害が発生した
場合は、責任追及を受けることがある。違反があったとして、Xの請求を一部認容したが、Xが敗訴部分を不服として控訴した。
(2)判決の要旨
(ア)Yは、建築基準法、宅地造成等規制法等による規制があることについて具体的な説明をしていなかった。かえって、誤解を与えるような概算見積書を格別の説明を加えることなく交付して、Xに誤解を生じさせたものであるから、媒介契約に基づく善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)
受任者が、委任の本旨に従い、善良な管理者の
注意をもって委任された事務を処理する義務を
負うこと。受任者には、その職業・地位・能力
等による社会通念上要求される注意を払う義務
が課され、この注意を怠って損害が発生した
場合は、責任追及を受けることがある。違反があり、債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。により、Xが被った損害を賠償すべき義務がある。
(イ)しかし、Xが概算見積書によって、本件土地上に希望の建物を建築できると即断したことについてはXにも過失があり、売主との交渉を考えることなく、長年にわたってYの責任の追及に終始して、損害の回復を困難にしたXの過失割合は大きく、6割を過失相殺(そうさい)
2人の者が互いに相手に対して同種の債権を
持っているとき、相手方への意思表示によって
その債務を対当額で消滅させることをいう。(かしつそうさい)
損害賠償額から過失相当分を差し引いて
損害を負担することをいう。賠償を受ける
者にも過失がある場合に、負担を公平に
行なうために適用される。するのが相当である。
(3)まとめ
業者による、買主に誤解を与えるような安易な見積書の交付は本事案のようにトラブルの原因となることがある。
他方で、本判決では、買主が売主と交渉せず、また、媒介業者が各種の擁壁設計案を提示したにもかかわらず長年にわたって業者の責任追及に終始してきたこと等を指摘して、裁判所は6割の過失相殺(そうさい)
2人の者が互いに相手に対して同種の債権を
持っているとき、相手方への意思表示によって
その債務を対当額で消滅させることをいう。(かしつそうさい)
損害賠償額から過失相当分を差し引いて
損害を負担することをいう。賠償を受ける
者にも過失がある場合に、負担を公平に
行なうために適用される。を認定している。
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