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タイトル:裁判事例売主のなした裁判上の和解と不知の買主の責任

東京地裁判決 平成15年1月21日
(判例時報 1828号 59頁)

《要旨》
 分譲マンションの高さ制限等を内容とする、裁判上の和解に違反して建築された物件を買い受けた区分所有者等に対する損害賠償請求の一部が認容された事例

(1) 事案の概要
 Xは、自宅の南側隣接地に6階建てマンションの建築を計画したY1(注文主)及びY2(建設会社)に対し、日照阻害等を理由として、建築禁止仮処分を申し立てていたが、その審尋期日において、(ア)本件建物の5階及び6階の一部を削り、冬至日の日影ラインを40cm低くする、(イ)本件建物の最高高さを10cm低くするとの内容の裁判上の和解が成立した。
 しかし、Y1及びY2は、この和解に違反して本件建物を建築したため、Xの自宅は、建築前と比較して冬至日に約2時間20分の日影時間が生じるなどの影響が出た。なお、マンションの区分所有者Y3ら26名は、本件和解後に、Y1から購入したものだが、和解の成立及びその内容につき、一切説明は受けていなかった。
 Xは、Y3らに対し、主位的に建物の一部撤去を、予備的に慰謝料2,500万円の支払を求めた。また、Y1及びY2に対しては、和解の債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
又は不法行為(ふほうこうい)
他人の権利・利益を違法に侵害したことによって
損害を与える行為をいう。
このような行為によって生じた損害については、
加害者が被害者に賠償する責任を負わなければならない。
に基づき慰謝料500万円の支払を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)和解調書は、確定判決と同一の効力を有し、また、Y3らは、口頭弁論終結後の承継人に当たり、既判力が及ぶ。
 (イ)Y3らは、和解に違反した部分を撤去する義務を負うが、撤去は社会的・経済的価値が大幅に減少すること、撤去により得られるXの日照の利益が僅かであること、Y3らは、仮処分手続き中にY1との取引関係に入ったが、和解の成立やその内容につき一切説明を受けずに、和解成立後に本件建物の区分所有権を取得しており、仮処分手続において実質的な手続き保障を受けていないまま、本件和解の効力を承継したこと等の事情を考慮して、撤去請求は、権利の濫用(けんりのらんよう)
一見権利の行使とみられるが、具体的な情況や
実際の結果に照らしてそれを認めることができ
ないと判断されることをいう。例えば、加害を
目的でのみなされた権利行使は一般的に濫用とされる。
に当たるので棄却する。
 (ウ)Y3らの日照被害に対するXへの慰謝料は、日照被害が冬至のころに限られること等に照らすと、100万円と認めるのが相当であり、Y3らは、Y1・Y2と連帯して支払え。
 (エ)Y1及びY2は、建築計画の変更が難しいことを認識していたにもかかわらず、その場しのぎ的に和解を成立させ、工事中止の仮処分手続きを中止させ、後にY3らに分譲し、撤去請求を不能ならしめたものであり、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料は500万円と認めるのが相当であり、Y1及びY2はY3らと(ウ)の限度で連帯して支払え。

(3) まとめ
 本判決は、建築禁止仮処分手続中に売買契約の交渉を行い、当事者の和解成立後に和解の成立やその内容を何ら認識せずに購入した区分所有者に対する違反部分の撤去請求を否定し、損害賠償責任を認めたものである。

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