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タイトル:裁判事例連棟式建物の売買の説明義務

東京地裁判決 平成9年1月28日
(判例時報 1619号 93頁)

《要旨》
 建替え目的の連棟式住宅の売買において、宅地細分化防止指導要綱の説明がなかったとして、売買契約の解除、手付金の返還及び売主に対する違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
の支払請求が認められた事例

(1) 事案の概要
 買主Xは、平成7年6月、媒介業者Y2を通じて、売主Y1(非業者)から中古の土地建物を建替え目的で、3,200万円で買い受け、手付金300万円を支払った。
 本件建物は、棟割式の3戸連棟の建物の一つで、これを独立の建物として建て替えるには敷地を分割する必要があるが、区の「宅地の細分化防止に関する指導要綱」では、60平方メートル未満の敷地を認めていないため、区との事前協議が整わず、建築確認を得ることができない物件であった。しかし、Xが建替えは大丈夫かと尋ねたにもかかわらず、Y1及びY2は、本件指導要綱の存在を全く説明せず、接続している隣家の同意も容易に得られるから、建替えは自由にできる、と虚偽の説明をした。
 Xは、都への相談、区への照会等により、これらの事実を知り同年8月、Y1に債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
があったとして契約を解除し、Y1に対して、手付金の返還及び違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
640万円の支払を、Y2に対して、媒介手数料相当40万円の支払を求めた。Y1は逆にXに対して、債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
を理由に、違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
残額340万円の支払を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)Xは本件建物を建て替える目的を有しており、本件指導要綱は売買契約の締結に重大なかかわりを持っているが、Y1及びY2は、本件指導要綱の存在を熟知しており、売買契約締結時に説明することが容易であったのにその存在を全く説明せず、隣家の同意も容易に得られ、建替えは自由にできる旨説明したのであるから、説明義務違反は明らかである。
 (イ)Y1の説明義務は、売買契約における信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
から導かれる付随業務の一種であるから、XはY1に対して、同業務の不履行を理由として契約の解除をすることができる。
 (ウ)したがって、Xに対し、Y1は手付金300万円と説明義務違反による約定の違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
640万円を、Y2は媒介契約違反による媒介手数料相当損害金40万円をそれぞれ支払え。

(3) まとめ
 本件は、売主が非業者であり、説明は媒介業者が行ったのであるが、売主Y1についても違約金(いやくきん)
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務
を履行しない場合には、債務の履行を確保
するために、その債務を履行しない当事者が
他方の当事者に対して、一定額の金銭(違約金)
を支払わなければならないと定めることがある。
の支払を認めた厳しい内容の判決となっている。連棟式建物の建替えにおいては、宅地細分化防止指導要綱等のほか、接道関係等で、一戸建てへの建替えができないことも多い。重要事項説明等では、十分に注意する必要がある。

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