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タイトル:裁判事例公序良俗に反し無効とされた売買契約

高松高裁判決 平成15年3月27日
(判例時報 1830号 63頁)

《要旨》
 土地建物の売買契約は公序良俗違反により無効であるとした売主の主張が認められた事例

(1) 事案の概要
 売主Xは、知的能力がやや劣っており、また、消費者金融等から総額600万円の借入れをしていた。所有する土地の登記済権利証はXの父が保管しており、実印等は勤務先に預けてあった。
 Xに多額の借金があることを聞いていた元同僚のAは、知人のYの家に連れて行き、そこで、Yは、本件土地を実勢価格より著しく低い2,000万円で買い受けるとし、現金10万円を交付した。Xは、登記済権利証等を所持していない旨告げたが、Yから住所変更の手続と実印の改印の手続をするように言われ、手続後、手付金390万円を受領した。
 Yは、Xを連れて司法書士事務所へ行き、所有権移転登記手続を依頼した。司法書士は、本人確認をし、登記の意思確認をしたうえで、委任状の押印をさせ、登記済権利証がないため、司法書士が保証人(ほしょうにん)
債務者がその債務を履行しないときに、
その履行をする責任を負う者をいう。
となって登記手続を行うことになった。その後、Xは、Yの指示でAと行動を共にし、郵便物を郵便局に留め置く手続をしたうえで、法務局よりの回答書(葉書)を受領し、登記がなされた。
 Yは、本件土地を買い受けたとしてXらに対して建物収去土地明渡等を求め、XはYに対し、本件売買契約は無効であるとして本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件売買契約における代金額は2,000万円であり、固定資産税証明書における評価額や鑑定評価額の4割にも満たない金額であり、乖離は非常に大きい。 
 (イ)本件売買契約当時、Xは、適正な時価は知らなかったものと推認され、客観的に見てXにとって著しく不利なものであったところ、Yはそのことを認識しつつ、そのことを認識していないXに同契約を受け入れさせたものであるということができる。
 (ウ)Yは、Xが親族に相談することを回避するため、Aに指示してXと行動を共にさせたものであると推認することができ、このYの行為は、直ちにXに対する軟禁行為、脅迫行為に当たるとまでは評価できないとしても、Xが本物件を売り渡すについて、自由かつ合理的な判断をするための前提を損なわせる恐れが極めて強い行為であり、社会的相当性を著しく逸脱したものである。
 (エ)YはXの経済的窮状及び不動産取引の能力や経験の不足に乗じ、Xに著しく不利な条件の本件売買契約を締結させたものであるというべきであって、本件売買契約は、その内容及び契約締結の経過に照らし、公序良俗に反し無効というべきである。

(3) まとめ
 他人の無思慮、窮迫に乗じて不当な利益を得る暴利行為や不公正な取引行為などは、公の秩序に反し無効であると解されている。本判決は、契約の内容のみならず、取引を総合的に考慮して公序良俗違反と判断したものであると思われる。

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