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タイトル:裁判事例築19年の中古住宅に関する売主等の告知義務

大阪高裁判決 平成16年9月16日
(判例集未登載)

《要旨》
 屋根・壁の老朽化、床鳴り等について、築後19年の中古住宅が通常有すべき品質・性能を欠くとは認められず、媒介業者にも調査・告知義務はないとされた事例。

(1) 事案の概要
 売主Y1は、昭和57年築の土地付区分所有建物(タウンハウス2階建ての連棟式住宅のこと。各住戸の敷地は、
すべての住戸の所有者が共有していることが多い。
)を、昭和61年に購入し、平成12年まで居住し、その後は空き家としていた。買主Xは、業者Y2の媒介により、平成13年8月、2度にわたって本物件を確認した、Y1と、代金2,410万円で売買契約を締結した。
 本件売買契約書には以下の条項がある。
 (ア)売主は現状有姿(げんじょうゆうし)
現在あるがままの状態を意味する。
「現状(況)有姿」は引渡しまでに
目的物の状況に変化があったとしても、
売主は引渡し時の状況のままで引き渡す
債務を負担しているにすぎないという趣旨
で使われることが多いが、単に「現状(況)
有姿」の記載があるからといって、直ちに
売主の瑕疵担保責任の免責の合意があると
まではいえない。
のまま売渡し、買主は確認のうえこれを買い受けた。
 (イ)添付の「物件状況確認書」に記戟された内容と異なる瑕疵があった場合で、買主が売主に対して本物件引渡し後2箇月以内に発見しかつ通知した場合は、売主は買主に対して、自己の責任と負担においてその修復をしなければならない。
 (ウ)付帯設備については、売主は瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
を負わない。
 その後Xは、本件建物には屋根・壁の老朽化、床鳴り等の「隠れた瑕疵(かくれたかし)
売買契約を締結した時点において、買主が
知らなかった瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)であり、かつ買主が通常
要求されるような注意力を働かせたにも
かかわらず発見できなかった瑕疵のこと。
」が存在しているとして、損害賠償を請求した。一審はXの請求を棄却したため、Xが控訴した。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件で問題とされるべき瑕疵は、築19年の中古住宅が通常有すべき品質・性能を欠いていることをいうものと解され、また、契約書にも、本物件を現状有姿(げんじょうゆうし)
現在あるがままの状態を意味する。
「現状(況)有姿」は引渡しまでに
目的物の状況に変化があったとしても、
売主は引渡し時の状況のままで引き渡す
債務を負担しているにすぎないという趣旨
で使われることが多いが、単に「現状(況)
有姿」の記載があるからといって、直ちに
売主の瑕疵担保責任の免責の合意があると
まではいえない。
の状態で売り渡すものであり、物件状況確認書に記載された内容と異なる瑕疵があった場合にのみ、売主が修繕義務(しゅぜんぎむ)
不動産の賃貸人は、その目的物を使用収益
できるよう、そのために必要な修繕を行う
義務がある(民法606条)。
を負担する旨が明記されている。Xの主張する本件建物に関する不具合は、いずれも、物件状況確認書の記載内容と異なるものではなく、また、築19年の中古住宅が通常有すべき品質・性能を欠くとの証拠はない。
 (イ)付帯設備について瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
を免除する特約は、免責を主張することが信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上許されないと認められる特段の事項がない限り、原則として有効なものであり、仮にY1が付帯設備の瑕疵を知っていたとしても、そのことのみでは特段の事情に該当するものとはいえない。
 (ウ)本件売買契約締結当時、本件建物の屋根や外壁について、具体的な修繕計画が存在したのであればともかく、それ以前の段階の補修についての管理組合(かんりくみあい)
分譲マンションなどの区分所有建物において
、区分所有者が建物および敷地等の管理を行
なうために区分所有法にもとづいて結成する
団体のこと。
での議論について、Y1に告知義務はない。
 (エ)媒介業者は、原則として、物件の物的瑕疵については、売主からの聴取等通常の調査方法で知り得るものについてのみ調査告知義務を負うと解するのが相当であり、Y2は本件売買契約の媒介にあたり、瑕疵を調査し、告知する義務を負っていたとは認められない。
 (オ)宅建業法上、媒介業者が過去の修繕の経過について告知義務を負うのは、当該建物の維持修繕の実施状況が記録されている場合である。

(3) まとめ
 媒介業者の調査説明義務の範囲、程度等について参考となる事例であるが、売主による、正確な「物件状況確認書」の作成の重要性を再認識させるものでもある。

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