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タイトル:裁判事例暴力団事務所と瑕疵担保責任

東京地裁判決 平成11年6月16日
(判例集未登載)

《要旨》
 真向かいの建物が暴力団事務所で、組員が常駐していたことが、契約締結後に判明し、売主に対して売買代金の9%相当額の損害賠償を命じた事例

(1) 事案の概要
 買主Xは、平成3年11月、売主Y1から、元付業者Y2及び客付業者Y3の媒介で、土地(120.09平方メートル)を、当面将来居宅建築目的で8,330万円で買い受け、所有権移転登記をした。
 しかし、本件土地の道路を挟んだ南東側の真向かいの建物(以下「A建物」)は、平成2年3月、A(指定暴力団組長)が購入して登記を移転し、組員が常駐していた。地元警察署は、同年9月頃、A建物を組事務所と認識していたようであるが、組員らの徘徊もなく、外観上組事務所とは明らかな状況ではなかった。
 Yらは、A建物に組員が常駐している事実を知らず、暴力団事務所の存在及び組員の常駐について説明しなかった。また、Xも、本件土地見分の際、組員常駐に気がつかなかった。
 Xは、平成4年3月、近隣の人から、A建物が暴力団事務所として使用されているらしい旨を聞いた。
 平成5年6月、A建物で発砲事件が発生し、その後、A建物は、出入口が格子戸から金属扉に取り替えられ、2階の窓に鉄格子が設置され、壁面に監視カメラ及び照明設備等が設置された。
 Xは、平成8年6月、Y1に対し、詐欺(さぎ)
他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせること。
取消し、錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
無効、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
による解除を理由に支払い済代金の返還、Y2・Y3に対し、媒介契約又は信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上の保護義務違反を理由に損害賠償を求め、予備的に、Y1に対して瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)
特定物の売買契約において、その特定物に
「隠れた瑕疵(かし:「きず」「不具合」
「欠陥」のこと)」があったときに、売主
が買主に対して負うべき損害賠償等の責任
を「瑕疵担保責任」と呼んでいる(民法570条)。
に基づく損害賠償を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件契約において、近隣に暴力団事務所の存在しないことが表示されていたとは認められず、また、住環境の良い土地と表示されて売買された場合でも、近隣に暴力団関係施設が存在しないことを当然に意味するものとして用いられたということはできない。よって錯誤(さくご)
意思表示をした者の内心の真意と表示されたことが、
重要な点(要素)で食い違いがあることをいう(民法95条)。
の主張は認められない。
 (イ)A建物の存在は、本件土地の瑕疵にあたるが、物理的瑕疵はなく、抽象的危険性ないしは心理的要因による瑕疵であって、本件土地は、A建物の存在により使用に支障を生じておらず、本件売買の目的を達成できないといえない。
 (ウ)本件売買当時の本件の隠れたる瑕疵による減価の程度は、鑑定評価等により、売買代金の9%の減価が相当であり、750万円となる。
 (エ)Y2及びY3に対する請求については、A建物に組員が常駐していたことを知っていたとは認められず、また、その調査義務があったとは認められないので、媒介契約の債務不履行(さいむふりこう)
売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、
売主が物件を引き渡さない場合など、
債務が履行されない状態のこと。
ないし信義則(しんぎそく)
権利の行使および義務の履行は、信義に従い
誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
上の保護義務違反に基づく請求は認められない。

(3)まとめ
 心理的瑕疵については、「通常一般人において住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があることを要する」とされており、本判決は、抗争に巻き込まれるという抽象的危険性や因縁を付けられる等のおそれがあるという心理的な要因による瑕疵を認めている。

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